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50代からのFIRE、金融資産1億円あれば大丈夫?

2025年10月11日


1億円あったら安心?

最近の株高で大きく資産を増やし、金融資産1億円を超える世帯が増えています。それと同時に、「FIRE」という文字を見る機会も増えたように感じます。

ところで1億円あれば早期退職しても安心なのでしょうか。

「FIRE」で検索すると、「4%ルール」という言葉がよく出てきます。

「4%ルール」とは、米国発の考え方です。資産の4%ずつを毎年崩して生活費に充てることで、資産枯渇の可能性を低くし、理論上は半永久的に資産が目減りしないとされています。

 

まずは、年間支出額の25倍のお金を貯めます。その貯まったお金を年4%で運用していけば、FIRE後も資産をを減らすことなく生活できるとの考えです。

 

例えば、年間の生活費が400万円の場合、その25倍は1億円です。この1億円を年4%で運用すると毎年400万円のリターンが得られることになり、元本を減らさずに生活ができます。

でも本当に、この4%ルールを信じてよいものなのでしょうか。

「1億円を4%で運用する」と口で言うのは簡単ですが、今ある手元の現預金を全て投資するというのは抵抗があるのではないでしょうか。

 

50歳で1億円達成したら・・・

 

今回は50歳で1億円の現預金が貯まったとして、早期退職(FIRE)したらどうなるかを、具体的な数字を交えながら考えていきたいと思います。

前提として

・生活費 500万円/年(インフレ率は話を単純化するため非考慮)

・公的年金 250万円/年(65歳以降)

・運用に伴う税金・諸経費は非考慮

とします。

 

まずは、運用リターンを0%として考えてみましょう。

1億円の現預金を崩していくと

年金を受け取る65歳までで、500万円×15年=7500万円の取り崩しが発生します。
つまり、65歳時点での現預金は2500万円です。

65歳以降は、公的年金を250万円ずつ受け取れるため、毎年の取り崩し額は250万円です。そうすると10年後の75歳時点で、お金はゼロになってしまいます。

 

年利4%で運用すると・・・

次に、同じ1億円を年利4%で運用できた場合を考えてみましょう。
運用によって増える金額よりも生活費の方が大きいため、「運用しながら取り崩す」形になります。具体的には下記のイメージです。

【50歳~65歳(公的年金を受け取るまで)の期間】

  • 1年目:資産1億円 × 1.04 ≒ 1億400万円 → 生活費500万円を差し引く → 9,900万円
  • 2年目:9,900万円 × 1.04 ≒ 1億296万円 → 生活費500万円を差し引く → 9,796万円
  • 3年目:9,796万円 × 1.04 ≒ 1億188万円 → 生活費500万円を差し引く → 9,688万円…
  • 15年目(65歳):同じ計算を繰り返すと、残高は 7,998万円

50歳から65歳までの生活費500万円を取り崩しても、運用で得られる利益があるため、15年後(65歳時)の残高は 7,998万円 と試算されます。
0%運用の場合の2,500万円とは大きな差です。

さらに65歳以降、年金250万円が入ると、年間不足分は500万円−250万円=250万円。
初年度でも運用益だけで年間約320万円(65歳時点での残高7,998万円 × 4%)得られるので支出よりも収入の方が多い状態になります。

【65歳以降】

  • 66歳:資産7,998万円 × 1.04 ≒ 8,318万円 → 不足分250万円を差し引く → 8,068万円
  • 67歳:8,068万円 × 1.04 ≒ 8,390万円 → 不足分250万円を差し引く → 8,140万円
  • 68歳:8,140万円 × 1.04 ≒ 8,466万円 → 不足分250万円を差し引く → 8,216万円

  • 90歳:同じ計算を繰り返すと、残高は1億909万円

90歳の時点で1億909万円となり、スタート時の1億円よりも増えているという結果となりました。

 

1億円をすべて投資に回す前提は非現実的

実際には生活費や緊急資金を現預金で持っておく必要があります。また、保有している現預金全てをいきなり投資に回すというのは、かなり心理的にもハードルが高いものと考えます。

 

上記問題点を考慮し、FIRE後も資金が枯渇しないために、どのような資産配分で運用し、どのように取り崩していくと良いかをできるだけ単純化してシミュレーションしたいと思います。

 

お金を3つに分けて考える

まずはお金を以下の3つのポケット(資産クラス)に分けて考えます。

現預金(必要な時にいつでも使える)

債券(定期的に金利収入を受け取ることを目的)

投資信託(運用しながら、少しずつ崩していく)

 

ここでは1億円を、以下の資産配分でシミュレーションします。

現預金:2000万円

債券(米ドル債・利率4%)5000万円 ※1

投資信託(バランスファンド・3%複利)3000万円 ※2

 

※1.債券はアメリカドルの債券で年利4%の債券を購入すると仮定します。為替リスクや債券価格の変動リスク等は話を単純化するために考慮しないものとします。また、債券は通常満期がありますが、こちらも同様に考慮しないものとします。
※2.投資信託はバランスファンドを想定、投資信託は通常価格が日々変動しますので、利回りは確定ではありませんが、こちらも話を単純化するために毎年3%ずつ複利で増えていくものと仮定します。
※3.税金は考慮しないものとします。

 

どの資産をどう取り崩すか

【50歳~65歳(公的年金を受け取るまで)の期間】

毎年入ってくる収入は債券の金利収入200万円です。年間の生活費が500万円とすると毎年300万円の赤字となります。

今回のシミュレーションでは、不足分の300万円を、年率3%複利で運用されている投資信託を毎年200万円ずつ解約し、現預金を毎年100万円取り崩すものとします。

 

収入:200万円/年

支出:500万円/年

取り崩し:投資信託から200万円/年、現預金から100万円/年

 

そうすると15年後の金融資産は以下のようになります。

現預金:2000万円→500万円

債券:5000万円

投資信託:3000万円→954万円

 

最終的に合計で6454万円もの金融資産を残すことができました。

【65歳以降】

毎年入ってくる収入は債券の金利収入200万円に加え、公的年金の250万円を加えた合計450万円が入ってくるものとします。年間の生活費が500万円とすると毎年50万円の赤字となります。

今回のシミュレーションでは、不足分の50万円を、年率3%複利で運用されているバランスファンドを毎年50万円ずつ解約して充当するものとします。

収入:250万円+200万円=450万円/年

支出:500万円/年

取り崩し:現預金から50万円/年

 

そうすると90歳時点での金融資産は以下のようになります。

現預金:500万円

債券:5000万円

投資信託:954万円→175万円

 

90歳の時点で5675万円のお金を残すことができました。一方でこのケースですと、当初3,000万円で運用を始めた投資信託は取り崩しの影響で175万円まで減少しています。


問題点

単純化したとはいえ、これまでのシミュレーションには様々な問題点があります。

・インフレ率を考慮していない

コロナ以降、世界は大きくインフレに傾き、この日本でも毎日物価高のニュースをよく聞くようになりました。そんな状況で生活費をインフレ率ゼロでシミュレーションをするのは楽観的かもしれません。実際にはインフレ率を考慮したシミュレーションを作成する必要がありそうです。

 

・税金を考慮していない

今回の例だと米ドル建て債券の金利収入に対しては20.315%の税金が発生します。また、投資信託売却時に利益が出ている場合も利益に対して20.315%の譲渡益税が発生しますので、その分手取りの金額は基本的には減少します。

 

・米ドル建て債券の変動要因を考慮していない

受取金利を利率4%で毎年200万円受け取るとしていますが、実際の受取金額は受け取り時の米ドルの為替レートでその都度変動します。今後円安になれば受取金額は増える一方、円高になれば減少します。

 

・米ドル建て債券の満期を考慮していない

また、満期を考慮していないのですが、実際の債券には満期があり、満期がくると債券を新たに購入し直す必要があり、その時の債券の金利の条件はその時のアメリカの金利情勢に左右されるため、4%より悪くなっている可能性があり、そうなると受取金利も減少することになります。

 

・投資信託の価格変動リスクを考慮していない

このシミュレーションでは価格変動リスクを考慮していないのですが、実際には価格は変動します。200万円ずつ解約する際に投資信託の基準価額が大きく下がっている場合や元本割れしている状態でも解約することになるため、損失が発生したり、精神的にも辛いものがあります。

 

ここがポイント

これらの問題点をしっかりと頭に入れながら定期的に計画を訂正していく必要があります。

 

債券に投資する際は一つの銘柄だけを持つのではなく、償還までの年限が違う複数の銘柄を保有することで金利変動リスクを分散したり、定期的に償還を迎えるように組み合わせることで、資金ニーズに合わせて柔軟に対応できるようになります。

投資信託の取り崩しの際には、解約時のマーケット状況に応じて解約金額の割合を調整する必要があります。

例えば投資信託の成績が悪いときは投資信託の解約金額を少なくし、その分現預金の取り崩しを多くします。一方で投資信託の成績が良いときは投資信託の解約金額を大きくし、現預金の取り崩しを少なくします。水道の蛇口からでる水の量を栓の開け閉めで調整するイメージです。

また、投資信託の解約方法としては、定率解約という方法もあります。毎月決まった率(例えば毎月1%)を解約する方法です。この方法を使えば、投資信託の基準価額が高い時には多くの口数を解約し、基準価額が低い時には少ない口数の解約で済むので、経済合理性の高い解約が可能です。このやり方も先ほどの考えと同様に、投資信託のパフォーマンスの状況や家計の状況などによって解約率を調整すると良いでしょう。

 

定率解約についてはこちらのコラムに詳しく書かれてますのでご興味ある方はどうぞ。

老後の効果的な資産設計!退職金は、「〇〇売却」がおススメ

 

まとめ

今回のシミュレーションはあくまで単純化したケースですが、実際にはインフレや為替、金利動向、税金など多くの要因を考慮しながら「どの資産をどの順番で、どのくらい崩すか」を決めていく必要があります。

つまり、FIRE後の資産管理は「目標金額に達したら終わり」ではなく、その後の継続的なマネジメントが肝心です。

自分一人で一歩を踏み出すことが難しそうな方は、お気軽に弊社までご相談ください

 


執筆者  藤原 達彦

シグマ株式会社 執行役員
ファイナンシャルプランナー(CFP)
日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)

九州大学卒業後、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に入社。個人富裕層、法人顧客への資産運用設計コンサルタントに従事し、営業表彰などを受賞。今まで以上にお客様視点で物事を考え、一人でも多くのお客様の役に立ちたいとの考えからシグマ株式会社に入社。丁寧なヒアリングとライフプランからお客様毎の課題を明確にし、最適な資産運用提案を心がける。

【趣味】自己啓発、四季報の読破、お酒、トレーニング・ジョギング

【座右の銘】継続は力なり

【講師実績】 名古屋証券取引所IRエキスポ2017、2018