ご家族から財産を受け継ぐ際、現金や預貯金であれば手続きのイメージが湧きやすいかもしれません。しかし、亡くなった方が証券会社で株式や投資信託を保有していた場合、何から手をつければよいのか分からず戸惑う方は多くいらっしゃいます。
「株の知識が全くないのに、どう扱えばいいのか」
「手続きをしている間に価値が下がってしまうのではないか」
「税金がどう計算されるのか分からない」
このような悩みを抱えたまま放置してしまうと、手続きが複雑化したり、思いがけない税金が発生したりする可能性があります。有価証券の相続には、現金にはない独自のルールと注意点が存在します。
本記事では、株式や投資信託を相続した際にとるべき具体的な手続きの流れや、受け継いだ資産をご自身のライフプランに合わせて活用するための考え方について、制度上の注意点を事例に分かりやすく解説します。
まずは、具体的なシチュエーションを想定して、相続の際に起こりうる課題を整理してみましょう。
【前提条件】
・相続人:50代の会社員(投資経験はほとんどない)
・被相続人:80代で亡くなった父親
・相続財産:預貯金のほかに、父親名義の証券口座に国内株式と海外株式型投資信託(複数の国と地域に投資するタイプ)が合計で約3,000万円分あることが判明
・家族状況:子どもは大学生と高校生で、これから教育費のピークを迎える。自身の老後資金についても準備を始めたいと考えている時期。
このモデルケースにおける最大の課題は、「投資経験のない相続人が、価格変動のある有価証券を突然引き継ぐことになった」という点です。
父親が長年かけて築いた資産ですが、父親の投資目的(長期的な資産拡大や配当金の受け取りなど)と、現在の相続人のライフステージ(教育費の準備と老後資金の形成)は必ずしも一致しません。また、証券口座の名義変更手続きそのものを理解していないため、「とりあえずそのままにしておこう」と考えてしまう傾向があります。しかし、これが後々大きな負担となる場合があります。

具体的な対処法を見る前に、有価証券の相続における代表的な落とし穴を把握しておきましょう。メリットだけでなく、どのようなリスクがあるのかを知ることが第一歩です。
亡くなった方の口座のままでは売却できない
よくある誤解が、「相続したからすぐに売って現金化しよう」というものです。有価証券は、亡くなった方の名義のままでは売却することができません。一度、相続人自身の名義の証券口座に株式や投資信託を移管(移動)させる必要があります。ご自身がその証券会社に口座を持っていない場合は、新たに口座を開設する手間と時間がかかります。
手続き期間中の価格変動リスク
遺産分割協議を行い、証券会社で口座を開設し、移管手続きが完了するまでには、数週間から数ヶ月の時間がかかる傾向があります。この期間中も株式や投資信託の価格は市場の値動きに合わせて変動し続けます。いざ自身の手元に移管されて売却しようとした時には、相続発生時よりも価格が下落しているリスクがあることを理解しておく必要があります。
取得費(購入価格)の引き継ぎによる税金の罠
株式や投資信託を売却して利益が出た場合、その利益に対して税金がかかります。ここで注意が必要なのは、「利益の計算基準となる購入価格は、亡くなった方が購入した時の価格を引き継ぐ」というルールです。
例えば、父親が何十年も前に非常に安い価格で購入した国内株式が、現在大きく値上がりしていたとします。相続人が現在の高い価格の時に受け継ぎ、その後すぐに売却した場合でも、「父親が安く買った価格」と「売却した価格」の差額が利益とみなされます。そのため、手元に入ってくる現金に対して想定外に高い税金がかかる可能性があります。
資産の偏り(集中投資)のリスク
亡くなった方が特定の企業を応援する目的で1つの国内株式のみに集中投資していた場合など、受け継いだ資産のバランスが極端に偏っているケースがあります。特定の銘柄のみに依存した状態は、その企業の業績悪化によって資産価値が大きく減少するリスクが高まります。
落とし穴を理解した上で、どのような手順で手続きを進めればよいのかを整理します。

無事に移管手続きが完了しても、モデルケースの50代会社員のように「このまま持ち続けるべきか、売るべきか」という判断に迷う方は少なくありません。そこで有効なのが、ご自身のライフプランに合わせて資産を「3つのポケット」に分けて整理・再構築するという考え方です。
亡くなった方のポートフォリオ(資産配分)をそのまま引き継ぐのではなく、自分自身の目的と時間軸に合わせてリスクを管理していくことが重要です。

1つ目のポケット:日々使うお金・直近で必要なお金(流動性資金)
生活費の半年〜1年分や、今後1〜2年以内に確実に出ていくお金(車の買い替え費用など)を入れるポケットです。
このポケットの資産は、価格変動リスクを避けるべきです。もし相続した財産の中に預貯金が少なく、直近の生活資金が不足しているようであれば、相続した株式や投資信託の一部を売却して現金化し、このポケットを満たすことを優先します。
2つ目のポケット:5〜10年以内に使う予定があるお金(中期の準備資金)
モデルケースにおける「大学生と高校生の子どもの教育費」などがこれに該当します。使う時期が決まっているため、大きく減らすことは避けたい資金です。
相続した資産の中に、価格変動の激しい単一の株式などがある場合、このポケットの目的に合わない可能性があります。その場合は売却を検討し、リスクが低めの投資信託や、手堅く定期預金などに振り替えるといった選択肢が考えられます。
3つ目のポケット:10年以上先のために育てるお金(長期の成長資金)
モデルケースにおける「ご自身の老後資金」など、当面使う予定のないお金を入れるポケットです。
長期的な目線で保有できるため、一時的な下落リスクを許容しながら、将来的な資産の成長を待つことができます。相続した財産の中に「海外株式型投資信託(複数の国と地域に投資するタイプ)」など、世界経済の成長を取り込めるような分散投資型のものがある場合は、売却せずにこのポケットの資金としてそのまま長期保有を続けることも一つの有力な選択肢となります。
このように、受け継いだ資産を「誰が買ったものか」という過去の視点ではなく、「これから自分たちのどのライフイベントで使うお金か」という未来の視点で分類し直すことで、売却すべきか保有すべきかの論理的な判断が可能になります。
今回のモデルケースの方であれば、相続した約3,000万円の有価証券のうち、数年以内に必要となる大学生と高校生のお子様の教育費分については現金化するか、価格変動リスクを抑えた投資信託などへの買い替えを選択肢として検討します。一方で、当面使う予定のないご自身の老後資金にあたる部分は、「海外株式型投資信託(複数の国と地域に投資するタイプ)」としてそのまま継続して保有し、運用を続けるというアプローチも考えられます。
株式や投資信託の相続は、単なる名義変更の手続きにとどまりません。亡くなった方の資産状況を正確に把握し、税金の仕組み(取得費の引き継ぎなど)に注意を払いながら、ご自身の人生設計に合わせてポートフォリオを再構築するという、非常に重要な資産管理の転換点となります。
「手続きが煩雑で後回しにしてしまっている」
「自分にとってどの銘柄を残し、どの銘柄を売却すべきか判断基準がわからない」
「税金面で損をしていないか不安がある」
もしこのような悩みを抱えている場合は、ご自身だけで抱え込まず、資産運用や税金の知識、ライフプランニングなど幅広い視点を持つFPへ相談することをお勧めします。
私たちは、客観的な事実に基づき、お客様一人ひとりの家族構成や将来の目標に合わせた「3つのポケット」の整理や、無理のないリスク管理の方法を一緒に考えます。相続という大切な節目を、ご自身とご家族の未来を豊かにするための第一歩にするために、ぜひ一度、個別相談をご検討ください。FP法人シグマでは、必要に応じて税理士、司法書士などニーズに合った専門家の紹介も行っています。お気軽にお問い合わせください。
シグマコラム編集チーム
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