長年、ご自身の将来やご家族の生活をより良いものにするため、株式や投資信託を通じた資産運用を続けてこられた方は数多くいらっしゃいます。長きにわたる経済の波を乗り越え、日々のニュースに目を向けながらコツコツと育ててきた資産は、ご自身の努力の結晶です。しかし、年齢を重ねるにつれて、「もし自分に万が一のことがあった場合、この証券口座にある金融資産はどうなるのだろうか」と疑問や悩みを抱く方が多くいらっしゃいます。
預貯金であれば、キャッシュカードや通帳の存在でご家族も把握しやすく、金額も明確です。一方で、株式や投資信託といった金融商品は、価格が日々変動し続けるという性質を持っています。そのため、投資の経験がないご家族にとっては、非常に扱いが難しく、心理的なハードルが高い財産となりがちです。ご自身が元気なうちは、相場の動きを確認しながらご自身で売買の判断ができても、遺されたご家族が同じように管理や判断ができるとは限りません。
また、「親が大切にしていた株式だから」という理由で、ご家族が売却をためらい、結果として価格変動の波に翻弄されてしまうケースも見られます。「家族の将来を思いやって増やした資産が、結果として家族の手続きの負担や精神的な重荷となる」という事態は、できる限り避けたいものです。
本記事では、株式や投資信託をお持ちの方に向けて、ご家族の手間や負担を減らし、スムーズな資産の引き継ぎを実現するための具体的な生前対策について、事実と論理に基づき詳しく解説します。
対策を検討するにあたり、まずは証券相続において頻繁に見られる具体的なモデルケースを想定し、どのような問題や負担が生じやすいのかを整理してみましょう。

夫(70代):長年にわたり資産運用を実践している。複数の証券会社(店舗のある対面型証券とインターネット専業証券)に口座を持ち、個別の国内株式を十数銘柄、および複数の投資信託を保有している。
妻(70代):投資の経験は一切なく、家計の現金や預貯金の管理を主に担当している。証券口座の仕組みやネット証券へのログイン方法などは把握していない。
長女(40代):実家から離れた遠方に住んでおり、フルタイムの仕事と自身の子育てに追われ、頻繁に実家へ帰省することは難しい状況だ。
このような状況下で、もし夫に相続が発生した場合、投資未経験の妻や多忙な長女には、以下のような多大な負担が生じる傾向があります。
資産の全容把握が困難
複数の証券会社に資産が分散していると、そもそも「どの金融機関に、どのような銘柄が、どれくらいあるのか」を特定するだけで膨大な時間と労力を要します。特にネット証券の場合は定期的な郵送物が届かないことも多く、パソコンやスマートフォンの中にある情報をご家族が自力で探し出さなければならないケースも少なくありません。金融機関の特定ができなければ、相続手続きをスタートすることすら困難となるでしょう。
相続手続きの複雑さと手間の増加
証券口座の相続手続きは、預貯金の解約手続きよりもプロセスが複雑な傾向があります。株式や投資信託を相続人名義に変更するためには、原則として、被相続人(亡くなった方)が口座を持っていた証券会社と同じ証券会社に、相続人(妻や長女)もあらたに証券口座を開設しなければなりません。複数の証券会社に口座が散らばっている場合、妻や長女はそのすべての証券会社と個別に連絡を取り、それぞれ異なる書類を取り寄せ、複数の口座開設手続きを並行して行わなければなりません。相続税の申告には期限が設けられているため、これらの手続きの遅れはご家族にとって大きな焦りにつながる可能性もあります。
無事に口座を引き継げたとしても、日々の価格変動に対する不安が残ります。相続後の生活でお金が必要になったときにどの資産をどのように売却すればいいのかを判断することは非常に困難です。相続手続き中にも相場が変動しているため、不慣れな方にとっては、予期せぬ値動きが大きなストレスとなりかねません。

こうしたご家族の負担や混乱を未然に防ぐためには、ご自身が元気で判断能力があるうちに、資産の整理と運用方針の抜本的な見直しを行っておくことが極めて有効な対策となるでしょう。具体的には以下のステップで進めていくことが考えられます。
ステップ1:証券口座を統合し、管理をシンプルにする
最初に着手すべきは、複数ある証券口座を1つ、多くても2つに絞り込むことです。口座をまとめることで、将来の相続時にご家族が手続きをおこなう証券会社の数が減り、書類の準備や連絡の手間を大幅に削減できる効果が期待できるでしょう。ご家族にとってもわかりやすい、あるいは手続きのサポートが充実している金融機関をメイン口座として選定し、そこに保有資産を移管する、あるいはほかの口座の資産を一度売却して現金化し、メイン口座に資金を移すといった方法が考えられます。
ステップ2:個別株式から投資信託への移行を検討する
日々値動きがあり、企業個別の業績確認やニュースのチェックが求められる個別株式は、投資未経験のご家族にとって、管理のハードルが極めて高い金融商品です。そのため、生前に個別株式を計画的に売却し、専門家が複数の銘柄に分散投資をおこなう投資信託へ資産を移行しておくこと も、合理的な手段の一つです。投資信託であれば、一つの商品で広く分散投資されるため、個別の企業倒産などによる影響を緩和し、日々の細かな銘柄選びや売買のタイミングを図る必要性が低減される傾向があるでしょう。
ステップ3:資金の目的に合わせた資産配分の再構築
口座と商品の整理が進んだら、遺されるご家族の今後の生活を見据え、資産を目的別に分けて管理するアプローチを取り入れます。これにより、どの資金をいつ使うべきかが明確になり、ご家族が迷いなく資産を扱えるようになるでしょう。
日常生活のための資金(短期的な資金)
直近数年間の生活費や、予期せぬ医療費・介護費用など、近い将来に支出が見込まれる資金です。この資金は、価格変動リスクを避けるため、株式や投資信託から売却して現金化し、元本が変動しない預貯金として確保します。これにより、相場が急落した際にも当面の生活資金に困窮する事態を避ける選択肢となるでしょう。
数年後に向けた資金(中期的な資金)
数年後から十数年後に使う可能性がある資金(ご自宅のリフォーム費用や、ご家族のイベント資金など)です。この資金は、極端な価格変動リスクを抑えつつ運用を検討します。「先進国債券型投資信託(為替ヘッジあり)」や、株式と債券などをあらかじめ決められた比率で組み合わせる「バランス型投資信託」などを活用することで、インフレによるお金の価値の目減りに対応しつつ、資産を保全する選択肢となるでしょう。
将来のための資金(長期的な資金)
当面使う予定がなく、ご家族にそのまま長期的な資産として引き継ぐことを前提とした余裕資金です。この資金は、長期的な経済成長の恩恵を受けることを目指し、「外国株式型投資信託(複数の国と地域に投資するタイプ)」などを用いて運用を継続します。一時的な価格下落があっても、長期間保有し続けることで回復を待つことができるため、時間的な猶予を最大限に活かした運用が可能となるでしょう。
このように資金の目的に応じて金融商品を割り当てておくことで、ご家族は「どの資産をそのまま保有し続け、どの資産を現金化して使えばよいのか」を論理的に判断できるようになるでしょう。

ご家族のための資産整理や運用方針の変更は非常に重要ですが、実行に移すにあたっては、あらかじめリスクや注意点、デメリットを正しく理解し、対策を講じておく必要があるでしょう。
価格変動リスクと元本割れの可能性
個別株式から投資信託へ移行したり、複数の国や地域へ分散投資を徹底したとしても、金融商品である以上、運用状況や経済情勢によっては元本を下回る可能性もあります。債券型やバランス型の投資信託であっても、金利の変動や為替の変動(為替ヘッジがない場合)などの影響を受けることがあります。リスクを抑える手法を取り入れたとしても、損失を完全に回避できるわけではないという事実を、ご自身もご家族も理解しておくべきです。
ポートフォリオ再構築にともなうコストと税金の発生
保有している株式や投資信託を売却して別の商品に買い替える際、売却時に利益が出ていれば、その利益に対して約20%の税金が課されます。長年保有して大きな含み益がある資産を売却して口座をまとめる場合、想定以上の税金が引かれる可能性もあります。また、あらたに投資信託を購入する際には購入時手数料が、売却する際には信託財産留保額といったコストが発生する商品もあります。ご家族の将来の負担軽減という目的と、現在発生する税金や手数料などのコストのバランスを冷静に比較検討し、計画的に進めることが求められるでしょう。
認知機能低下による口座凍結リスクへの備え
相続発生時(死亡時)だけでなく、ご自身の認知機能が低下し、意思能力がないと判断された場合、証券口座での売買などの取引が制限される可能性があります(事実上の凍結状態)。そのため、資産の整理や目的別の資金管理への移行は、「いつかやろう」と後回しにするのではなく、判断能力が十分にある元気なうちから前倒しで進めておくべきです。
家族との事前の話し合いと情報共有の徹底
どれほど綿密に証券口座を整理し、合理的なポートフォリオを構築したとしても、その事実や意図をご家族が知らなければ意味がありません。「どの金融機関に口座を残しているのか」「それぞれどのような目的で運用しているのか」を、あらかじめご家族に共有しておくことが非常に重要です。口頭で伝えるだけでなく、エンディングノートや財産目録といった書面に残し、その保管場所をご家族に伝えておくことで、いざというときのご家族の負担や混乱は大幅に軽減されるでしょう。
長年かけて築き上げた資産は、ご自身の人生の歩みそのものです。大切に育ててきた資産だからこそ、遺されるご家族が困惑することなく、スムーズに引き継げるように生前から整えておくことは、ご家族への重要な配慮と言えるでしょう。
証券口座の整理や個別銘柄の見直し、目的別の資金管理を活用した資産配分の再構築は、ご自身にとっても現状の資産状況をすっきりと把握し、今後の生活設計を明確にする良い機会となるでしょう。
とはいえ、長年保有してきた思い入れのある銘柄をどのように手放すべきか、売却にともなう税金の影響はどの程度か、そしてご自身のライフプランやご家族の状況に合わせたお客様に合ったポートフォリオをどう構築すればよいのかを、すべてお一人で判断し実行することは容易ではありません。手続きの煩雑さや専門的な知識が求められる場面も多々あります。
そのようなときは、金融や税制、資産承継に関する専門知識を持つファイナンシャルプランナー(FP)の活用をご検討ください。FP法人シグマでは、お客様一人ひとりの資産状況、今後のライフプラン、そしてご家族への思いを詳細にヒアリングした上で、客観的かつ論理的な視点から、最適な資産整理や運用見直しのアドバイスを行っています。また、必要に応じて税理士、司法書士などニーズに合った専門家の紹介も行っています。
ご家族への資産承継に関するご不安や、現在保有している株式・投資信託の扱いに関するお悩みがあれば、ぜひ一度、FP法人シグマの個別相談をご利用ください。専門家としての知見を活かし、ご自身の現状整理から具体的な実行のサポートまで、寄り添いながら対応します。
シグマコラム編集チーム
FP法人シグマは、名古屋に拠点を置き、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)として、
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