目次
・はじめに
・為替と金利の関係
・過去の推移からわかること
・損益分岐為替シミュレーション
・リターンの比較
・結局どちらのタイミングが有利?
「今から米ドルの債券買って大丈夫?」や「円高になるのを待った方がいいですよね?」というご質問をいただくことがあるので、タイミングによる違いを考察してみました。
本コラムでは外国債券の中でも米ドル建ての債券についてお話しさせていただきます。
また、外債に関する基礎知識は過去のコラムで説明しているので、そちらを御覧下さい。
米ドル建て債券投資の基本と注意点 https://fp-sigma.com/fp_column/treasury/
為替と金利の関係
為替は、主に各国の金利や景気動向の影響を受けて変動します。
金利は、主に金融政策の影響で変動します。
例えば、景気が良くて物価が上昇するペースが早過ぎるようであれば、金利を上げることでお金の巡りを抑えたり、逆に景気後退の局面では、金利を下げることでお金の巡りを活性化したりしています。
過去の推移からわかること
過去の推移を観察してみましょう。
investing.comのデータを参考にシグマ作成
観察したところ、多少のズレはあっても金利(米国債券利回り)と為替(ドル/円)は、多くの局面で連動していることが分かります。
外債の購入タイミングとして、
・円高時は、「利回りは低いが為替差益が期待できる」
・円安時は、「利回りは高いが将来の為替差損が気になる」
という傾向があると言えそうです。
では、どちらの局面で買った方が有利なのでしょうか。
過去に実際あった象徴的な2つの局面を基に、債券利回りと為替推移を考慮して損益がマイナスに至るまでの余裕(=損益分岐為替)を比較してみました。
A:米ドル/円=150円、最終利回り5%の債券を以下の残存期間で保有した場合
(スタートタイミングのイメージ:2023年10月時点の米ドル円と米国債10年利回り)
B:米ドル円=105、最終利回り0.5%の債券を以下の残存期間で保有した場合
(スタートタイミングのイメージ:2020年7月時点の米ドル円と米国債10年利回り)
を比較してみましょう。
比較した結果、残存期間5年の場合、Aの損益分岐点が120円であるのに対して、Bは102.44円になりました。つまり、Aよりも17円程度円高になっても評価損にならないBの方が円高に抵抗力があると言えます。残存期間15年、20年の場合はAの方が円高の為替損に対して抵抗力が大きいことが分かります。
今回のケースでは、損益分岐為替は10年未満の場合Bの方が有利(元本割れになるまでに余裕がある)であり、それ以上の期間ではAの方が有利という結果となりました。
より短期間で投資結果を求める場合は為替レートが重要となり、より長期間での投資成果を求めるのであれば金利が重要といえそうです。
次に、必ずしも今後円高になるわけではないので、償還時も購入時と同じ為替レートだった場合のリターンに注目して比較してみます。
比較した結果、残存期間5年間の場合、Aのリターン:Bのリターンは、(A)25% > (B)2.5% となり、残存期間20年間の場合も、Aのリターン:Bのリターンは、(A)100% > (B)10% となるので、為替が変化しなかったと仮定した検証の場合は利回りの高いAの方が圧倒的に有利という結果となりました。
しかも、20年保有した場合はリターンが100%ということですので、資産が元本の倍に膨れ上がるということになります。将来の為替の推移を予想することは難しいのに対して、積み重ねることができる債券利回りのリターンは時間をかけるほど魅力的になりますね。
損益分岐為替シミュレーションの結果から、購入タイミングの有利不利は保有期間の影響を大きく受けます。そして、どのくらいの期間保有できるかは資金の用途によって変わってくるので、ご自身のライフプランや資金のスケジュールをしっかりと検討した上で選択するのがよいでしょう。もし短期間で換金しないといけない資金であれば比較的為替の影響が大きくなるので、為替のタイミングを慎重に待った方がいいのかもしれません。逆に10年以上使う予定のなさそうな長期間投資可能な資産で運用するのであれば、時間をかけるほどに利回り効果がコツコツと効いてくるので、為替のタイミングに過敏にならずに保有開始して利回りの恩恵を楽しむのもいいのではないかと思います。
ただ、為替の水準は絶対的な基準がない世界です。1970年代以前の米ドル/円のように200円や300円を超えてくるような円安になることもあり得ますが、未知の円高水準の60円台や50円台になる可能性もあります。いずれの可能性も念頭に置きながら特定の資産に偏り過ぎることなく冷静にバランスを考える事が大切だと思います。
※債券単価100%で購入した想定です。
本シミュレーションは概算です。正確な受渡代金、受取利金、元利金合計ではなく、利金、償還差損益等に関する課税および為替スプレッド等は考慮しておりません。また、元利金合計や損益合計は源泉徴収前、受取利金の円貨への交換は償還もしくは保有期間終了時、償還単価は100を前提に計算しております。
執筆者 山本 洋平
シグマ株式会社
ファイナンシャルプランナー
日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)
宅地建物取引士
大学卒業後、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)に入社。個人富裕層、法人顧客への資産運用設計コンサルタントに従事。より一層お客様目線のコンサルティングがしたいと考え、シグマ株式会社へ入社。
お客様の真の相談相手になりたいと考え、親身なコンサルティングを心がける。お客様の現状と将来目標をしっかりと分析し、目標を達成するためのプランを立案。金融商品も証券アナリストの目線から厳選。
【趣味】ワイン、ゴルフ、社交ダンス、YouTubeで猫とカワウソの動画を見ること
【講師実績】名古屋証券取引所IRエキスポ2019、資産運用基礎講座