相続はお金がらみのトラブルを多方面で引き起こす要因になるので、事前の対策が強く求められます。
そのためネット上や出版物、あるいは新聞や雑誌などのメディアでも「相続対策」をよく扱っていますね。
確かに、専門家目線で具体的な事案に対する対処法などが語られているものは参考になるものもあります。
ただ、相続というものは多角的に考える必要があり、また人によって取り巻く事情も異なります。
世にあふれる相続対策の中にはあなたにとって的確ではないノウハウが語られることも多いので注意が必要です。
この章では、あなたにもきっと当てはまる「相続対策として初めに手を付けるべきこと」をお話しますからぜひ参考になさってくださいね。
まず皆さんに知っておいていただきたいのは、冒頭でも少し触れた世の中にあふれる相続対策のノウハウや情報です。
多くは専門家が解説するもので、それ自体は確かに間違った情報ではないでしょうし、人によっては役に立つものです。
しかし、彼ら専門家が語るのはあくまでも自分の利益に通ずるものが多いのです。
例えば税理士であれば節税についての知識を披露し、できれば相続事案を受任できれば良いと考えます。
不動産業者は節税になるからとアパート建設を勧めたり、仲介手数料目当てに売却を進めることもあります。
保険会社は保険を勧めるでしょうし、金融機関は手数料を得るために現預金の一括管理などを勧めるかもしれません。
ですから雑誌や新聞、ネット上の情報を知っておくのは構いませんが、何も準備せず下手に直接相談に出向くと彼らの利益に誘導されてしまう恐れがあるので注意が必要なのです。
彼らはその道では専門家ですが、それ以外はあまり明るくありません。
例えば税理士は投資実務については素人ですし、不動産や保険などの会社の担当者も自分の守備範囲以外は考えることができないので、本人の立場に立った多角的な視点が持ちにくいのが実情です。
そこで、急いで誰かに相談する前に、少し冷静になって本来あるべき理想の相続について今一度考えてみましょう。
世の中の情報に惑わされず、立ち戻って理想の相続というものを想像してみましょう。
すると、ほとんどの方の理想は以下の3点に集約されていきます。
・大切に築き上げた財産が遺族に円満に承継されること
・相続税など税金を少しでも減らして財産の減少を防ぐこと
・もし納税が必要な場合は現預金で資金を確保すること
どうですか?上記は誰にでも当てはまる、普遍的ともいえる要望ではないでしょうか。
では世の中の相続ノウハウは上の点についてどのような対策を勧めるかというと、例えば下記のような対策を取るべし、ということがよく語られます。
・遺族が揉めないように遺言書を残す
・相続人となる予定の人と意思疎通を図っておく
・事業承継のため一部の人に遺産が集中できるように相続放棄も検討する
・贈与税の基礎控除枠を使って生前贈与による資産の移転を図る
・生命保険を活用して相続財産を減らす、また相続税の納税資金対策とする
・現預金を不動産に変えて遺産の価額を計算上減らして節税を図る
・税制上の各種控除策を活用する
などですね。
確かにこれらは相続対策として利用されることがあり、適切なケースに用いることで効果を発揮します。
ただこれらのノウハウは、「あること」を事前に行っておかないと不可能なのです。
そしてその「あること」が冒頭でお話した「相続対策として初めに手を付けるべきこと」になります。
相続対策としてあなたがまずやるべきことはたった2つです。
ですがやってみるとなかなか手の折れる作業でもあります。
その二つとは、「相続財産の調査・把握」と「相続人予定者の確認」です。
どのような相続対策が必要になるのかは、現状をしっかり把握しないと計画を練ることもできません。
従って、まずは自分が所有する財産を全て洗い出す作業が必要です。
できれば目で見て確認できるような形にして、自分の財産目録を作成し、資産状況を一覧で把握できるようにしましょう。
これができなければ遺言書に財産の種類や分配の指示をすることもできませんし、税金対策をするにしても、そもそも相続税の心配をする必要があるのか、あるのであればどれだけの納税資金を準備する必要があるのか、贈与税の基礎控除による節税を行うならば何年計画で進めるのか、現金を不動産に変える手法を使うならどの位の現預金をどの位の規模の不動産に変えるのか、その場合納税資金の現金が不足しないか、など具体的な対策を施すことが事実上不可能なのです。
また自分が死亡した後相続人となる予定の者もしっかり把握しておかなければなりません。
法定相続人となる者が死亡していたら次の優先順位は誰か、複数いる相続人で仲が悪く争いの火種になりそうな者はいないか、子供夫婦に今後子どもが生まれて生活資金の需要が増える可能性はいか、などを把握しておかないと、遺言を残すにしても財産の分配が難しくなりますし、相続人との事前の意思疎通を図っておくことも難しいでしょう。
配偶者に認められる大枠の控除策を使うために子どもへの分配枠を減らしたい、世話になった友人に財産を譲りたいなどの事情があれば事前に説明しておくべきですし、遺留分(相続人の最低取り分)を害する遺言を残す場合は事前に相続人に事情を話して了解を得ておかないと高確率でトラブルになります。
そのような危険を避けるには相続人予定者の把握が大切ですし、事の性質上やはり財産の把握も必須と言えますね。
財産調査で難しいのは現預金以外の不動産や有価証券などの価値です。
相続人間の遺産分配においては市場価値と同視して構いませんが、節税・納税対策のためにはまた違った価値計算が必要になるので、二面的にその価値を掌握しないといけません。
例えば相続税の計算の上では3000万円として評価される不動産も、市場価値では5000万円ということもあり得ます。
5000万円の市場価値の不動産を貰った人はいいのですが、代わりに現預金で3000万円もらった他の相続人からは差額の2000万円分について不平が出て争いになるかもしれません。
そのようなことにならないよう、財産調査によって洗いだした資産の中で不動産や有価証券などは特に注意してその評価を行う必要があります。
加えて、税法上の財産価値の算出には不動産も有価証券もそれぞれ独特の計算が必要で、素人の方には少し難しいかもしれません。
ここら辺に詳しいのがFPや税理士ですから必要に応じて適宜活用しても良いかと思います。
ただ、税法上の価値の把握が難しくても、市場価値であれば不動産業者に査定してもらったり、有価証券であれば市場での取引額を参考にして割と簡単に把握できると思います。
「面倒だな」と思って躊躇するくらいなら、まず始めの一歩としては市場価値を把握するだけでも十分です。
ぜひ一歩を踏み出してください。
今回は相続対策としてまず何から始めるべきか考えてみました。
世の中に対策ノウハウは多くあれど、初手として手を付けるべきことは「相続財産の調査・把握」と「相続人予定者の確認」の二つに集約されます。
この二つは別に誰の迷惑になるわけでもありませんし、調査の段階では利害関係者に知られることもありません。
相続対策の為の下準備としていずれ必ず必要になる作業ですから、思い立ったが吉日、ぜひ行動を開始してください。