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公的年金が縮小する理由

2017年1月12日


セカンドライフの重要な役割を果たす年金

「老後の年金不安」を抱える人が増えているように感じますが、そもそも年金(公的年金)はどれほど重要なものなのでしょうか?本テーマの「公的年金が縮小する理由」に入る前に、まずはその重要性について考えてみたいと思います。
突然ですが、次の数字は一体何を表すものでしょうか?

91%

答えは、老後の収入に占める年金の割合です。

総務省「家計調査報告」(平成27年)によると、高齢夫婦で無職世帯の1ヵ月の収入は21万3379円で、そのうち年金収入は19万4874円とされています。収入のうちの9割以上を年金で賄っているのです。「老後は年金生活」という言葉をよく耳にしますが、数字にするとより具体的ですね。ほとんどの人が年金を頼りに生活していると想像できます。

ちなみに、同調査では1カ月あたりの支出についても報告されていて、同様に高齢夫婦無職世帯の支出は27万5706円です。つまり、平均的に毎月6万円ずつの赤字か生じている計算です。平均的に毎月6万円ほどを、預貯金などから取り崩して生活していることになります。

少し話は逸れますが、この調査から平均的な老後の必要資金を計算することができます。計算方法は簡単です。毎月の赤字が約6万円ですので、年間では約72万円です。仮に65歳から90歳まで生きたとすると、その期間は35年となります。したがって、約72万円×35年=2520万円が必要資金です。ただ、1つ注意点があります。もし60歳で完全にリタイアしてしまうと、65歳までの5年間は基本的に無収入です。そのため、5年間の生活費=1620万円(約27万円×12か月×5年)を必要資金にカウントしておかなくてはなりません。

高齢夫婦無職世帯の1ヵ月の収支

総務省家計調査(平成27年)

 もう1つ公的年金の重要性を挙げるとすれば、生きている限りずっと受け取れるという点です。民間の保険会社で個人年金保険に加入すれば、60歳や65歳などから年金を受け取ることが可能ですが、最近のものは、受け取れる期間(5年や10年など)が決められている場合がほとんどです。
人がいつ亡くなるかは誰にもわからないので、一生涯受け取れる安心感はとても大きいでしょう。

人口動態と給与水準

日本の公的年金制度は、現役世代が支払った保険料を、そのまま高齢者の年金に充てる仕組みになっています(「賦課方式」)。しかし、それだけでは多くの年金受給者を支えることができないため、年金積立金や税金で一部をまかなっているのです。

かつては若い世代が多く、お給料も順調に増えていく時代だったので、たくさんの保険料を見込むことができました。国からしてみれば、支払う年金以上に、受け入れる保険料の方が多かったのです。ところが、バブル期前後から年金に3つの荒波が襲いかかります。1つ目は、「人口の高齢化」です。日本が初めて高齢化社会を迎えたのは1970年と言われています(世界保健機構の定義による)が、その後も急速に高齢化が進み、2007年には「超高齢社会」に突入しました。ちなみに、65歳以上の高齢者人口が総人口に占める割合を高齢化率と言い、日本は世界トップの26.7%です。2位はイタリア(22.4%)、3位はスウェーデン(19.9%)です。【内閣府】

そして、2つ目に「平均寿命の伸び」が挙げられます。1980年頃は、男性の平均寿命は約74歳、女性は77歳くらいでしたが、現在(2015年)では、男性で80歳、女性で87歳となっています。長生きをする人が増えれば、当然、年金の支払いは多くなるので、年金財政は苦しくなっていくといえます。

3つ目は、「伸び悩むお給料」です。年金の保険料は、大半の人が給与天引きで支払いをしています。そして、お給料が多い人ほどたくさんの保険料を支払う仕組みになっています。つまり、国からすると、全体の給与水準が上がれば、保険料収入が増え、年金財政にとってプラスに働くことになるのです。ところが、日本の平均給与は1996年をピークに減少傾向をたどっています。1996年では418万円程でしたが、現在(2015年)は361万円となっています。【国税庁】平均給与の減少すると、保険料収入も減ってしまう状態なのです。

このような事情により、わが国の年金財政は徐々に苦しくなってきているのです。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の総人口は現在の約1億2700万人から、2048年には1億人を割り込み、2060年には約8674万人と3割以上も減少する見通しです。

マクロ経済スライド

「高齢化」「平均寿命の伸び」「給与の伸び悩み」などから、年金財政は厳しくなっています。このまま放っておいては、「年金破綻」という最悪の結果を迎えてしまいかねません。そこで、少なくとも5年 ごとに公的年金の財政検証を実施し、場合によって制度の見直しを行っているのです。

2004年の制度改正で、「マクロ経済スライド」と言われるものが導入されました。マクロ経済スライドとは、そのときの社会情勢(現役人口の減少や平均余命の伸び)に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組みです。もう少し詳しくいうと、「現役世代の人数の変化」と「平均余命の伸びに伴う給付費の増加」というマクロでみた給付と負担の変動に応じて、給付水準を自動的に調整する仕組みを導入したのです。【厚生労働省】