最近、「退職金で米国債運用のすすめ」「低リスク債券運用で3%~4%を得る方法」など、米ドル建て債券をすすめる記事やYouTubeをよく目にします。
なぜここまで米ドル建て債券に注目が集まっているのでしょうか。
それは、米国金利が2007年以来の高水準となっているためかと思われます。
下の図は2018年からの米国債10年物の利回りです。
昨年から非常に高い利回り水準となっていますが、具体的にどういった債券銘柄があるのでしょうか。以下に、3つ例をあげてみます。
米国債、国内メガバンク、米国半導体メーカーが発行する米ドル建て債券ですが、それぞれの「利回り」の欄を見てみると4%~%5.5%程度となっており、確かに円建て運用では得られないほど高くなっているのがわかります。
では、外貨建て債券の仕組みや投資する際に注意すべきことを順番に見ていきましょう。
債券とは、国や企業がお金を集めるために発行するもので、お金の貸し借りのときに作る「借用証書」のようなイメージです。
あらかじめ支払う利息や満期日が決められており、投資家は定期的に利息(クーポン)を受け取ることができます。満期日になると額面(≒元本)が償還(手元に戻る)されます。
定期的に利息が受け取れて、満期日に額面で戻ってくるのならば、運用資産をすべて債券投資にしてもいいのでは?と思われるかもしれませんが、もちろんリスクもあります。
※額面とは…債券購入の単位となる金額。
元本は額面に購入時為替をかけて算出するため、元本イコールではない。
次に、主な債券投資リスクを3つを確認しておきましょう。
債券は満期日まで保有すれば額面金額で返ってきますが、途中で換金する場合は、その時の市場価格で売却することになります。債券の市場価格は世の中の金利動向や発行体の信用力の変化によって日々変動しています。
基本的には世の中の金利が上昇すると債券価格は下がり、反対に世の中の金利が下落すると値上がります。途中で売却する場合はよく注意しましょう。
信用リスクとは、債券の発行体の財務状況などにより、投資元本やクーポンの支払遅延または支払不能(デフォルト)が生じるリスクのことを言います。
発行体のリスクを見極めるためには、格付が判断材料の1つになります。
格付は、発行体の財務健全性を図る指標の1つで、民間の格付会社が発行体を評価します。「AAA(トリプルエー)」が最も高い信用力を有し、一般的には「BBB(トリプルビー)」以上が投資適格(投資基準を満たしていること)と見なされています。
外国債券に投資する際、必ずついてくるものに為替変動リスクがあります。
経験がある方も多いのではないでしょうか。
具体例として1万米ドルの債券を米ドル/円レートが130円のときに購入したとします。
(購入金額は130万円)
償還時の為替が 140円(円安)の場合→10万円の利益
120円(円高)の場合→10万円の損失となります。
※為替手数料・金利・税金等は考慮しないものとする
ただし、高い利回りの債券の場合は償還までに受け取る利子で為替差損をカバーできる場合もあります。投資する際は一度損益分岐点を確認してみると良いでしょう。
ここからは債券の一歩踏み込んだ話をしたいと思います。
債券運用を考えていく上で気を付けたいことの1つが「長さ」です。満期までの「長さ」(残存期間)によって値動きが大きく異なります。
一般的にクーポンが同じであれば、残存期間の長い債券ほど値動きが大きくなります。これはデュレーション(金利の変化に対する価格感応度)によって表されます。
下記図は2%クーポンの債券価格が、残存期間と金利変動によってどれだけ変動するかを表しています。※最終利回りを世の中の金利(市中金利)と読み替えて考えています。
例えば、残存期間3年をご覧ください。市中金利が2%の時に100とします。もし、市中金利が4%になると債券価格は94.6まで値下がりすることになります。同様に10年のものを見ると、4%のところで85.7と約14円も値下がりしています。
このように、より期間の長い債券の方が、金利上昇局面では大きく値下がりしやすくなります。保有する際には、債券価格の変動を想定した上で購入した方が良いでしょう。
シグマ作成
一般的に「債券価格が上昇するときには、株価は下落しやすい」「債券価格が下落するときには株価は上昇しやすい」といわれます。その要因の一つに景気循環と金利変動があります。
景気が良い時(株価上昇)→金融引き締め(金利上げる)が行われ、既に発行されている債券の魅力が小さくなり債券価格が下落しやすくます。また、景気が良くなると積極的にリスクをとる投資家が増え、債券を売却(債券価格下落)して株式を買う動きが広がるでしょう。
景気が悪い時(株価下落)→金融緩和(金利を下げる)が行われ、既に発行されている債券の魅力が高まり債券価格が上昇しやすくなります。景気悪化に伴い、リスク回避の流れから株式を売却して債券を買う動きが広がるでしょう。
※短期的には、金利が上昇する(下落する)局面で株価が下がる(上がる)こともよくあります。
下図は1995年からの米国債(10年先物)と米国株(S&P500)の価格の推移を比較をしたものです。
長期的に見れば、株式と債券が反対の値動きをしているのがわかります。これを逆相関の関係といいますね。
ポートフォリオを作る際には株式と債券を組み合わせるのが一般的ですが、この逆相関性に期待して、一方が下がってももう一方が値上がりしてくれることで、全体のリスクを抑えようとしているのです。
もし、ご自身のポートフォリオが現状は株式中心になっているものの、今後リスクを抑えたいという方は、このような特徴を生かして、株式と債券を上手に組み合わせるのも良いかもしれません。
―米国債(10年物先物価格) ―米国株(S&P500)
ここまで債券の特徴についてお話ししてきました。
米ドル建て債券を買う際にもう一つ気になる動きがあります。それは「為替」です。
米ドルは昨年10月に150円台に乗せ、32年ぶりのドル高水準となりました。その後、やや円高へ落ち着いたものの、最近になって再度150円台に乗せたことがニュースになっています。米ドル建て債券が注目される一方で、為替についての質問が最近増えてきています。
「米ドル(建て債券)を今買って大丈夫?すぐ円高になって損しませんか?」
確かに金利が高い債券を為替が円高の時期に買いたいと思いますよね。
しかし、なかなかうまくいかないのが現実かもしれません。
上図は日本と米国の金利差とドル/円の動きを示したものです。
この図から、おおまかではありますが、日米金利差が拡大する局面では円安になりやすく、反対に縮小する局面では円高に振れやすくなることが見て取れます。現状では、日本の金利がそこまで変わらない中で、米国金利が大幅に上昇しているので、1ドル=150円など円安が進んでいると考えられます。
つまり米国金利が高く(米ドル建て債券は割安)なっていることと、円安になっていることは「同時進行」ともいえるのです。
米国が高金利(債券に魅力的な金利がついている)時に為替は円安。日米金利差が縮まり、米国が低金利(債券に金利があまりつかない)時は円高。まるでシーソーゲームのようですね。
為替を取るか、金利を取るか悩ましいところです。
ただし、長期的に考えるのであれば債券投資も有効でしょう。
なぜなら、その金利が高く、償還までの期間が長ければ、為替の損益分岐点が下がるからです。例えば利回り5%で20年満期であれば、単純計算でも2倍になります。為替が半分になったとしても利益が得られることになります。
為替を心配されるのであれば、ある程度の金利と期間を見て債券を選ぶと良いでしょう。
最後に、債券のポートフォリオを作る上で注意すべき点をまとめてみました。
A債券 〇〇% 2026年〇月〇日満期
B債券 〇〇% 2031年〇月〇日満期
C債券 〇〇% 2043年〇月〇日満期
上記のように短期・中期・長期に償還を分けて運用しておくと、資金が必要になって途中解約という状況を回避できると思います。また、金利変動リスクを低減することにもなります。
なお、クーポンがある債券は、年2回(半年ごと)に基本的にクーポンを受け取れるため、
定期的な収入が必要であれば、1月と7月、3月と9月など、分散することで希望に合わせることもできるでしょう。
発行体の信用リスクを避けるため、1つの債券に資産を集中させないことも大事です。
また、発行体の業種をわけても良いかもしれません。
債券の種類には普通社債の他に、ハイブリット証券(劣後債・COCO債・優先証券)
などさまざまな証券が発行されています。金利が高い分、発行体が破綻などした場合の弁済順位(資金を投資家に返す資産の順位)が低い債券もありますのでご注意ください。
債券投資はわかりやすい仕組みだからこそ、基本が大事です。
高金利や為替などで投資判断を誤らず、正しく判断して投資できるようになりましょう。
シグマ株式会社
ファイナンシャルプランナー(AFP)
大学卒業後、日興コーディアル証券(現SMBC日興証券)にて資産運用コンサルタントに従事。その後、みずほ銀行を経て、シグマ株式会社に入社。お客様のことを深く知って、お気持ちに寄り添ったアドバイスを心がける。お客様毎にライフプランに最適な資産運用を提案することはもちろんのこと、相続・遺言などにも強み。
【趣味】 神社仏閣巡り、甘味食べ歩き
【座右の銘】 日日是好日